第9回毎月短歌(4月7日締切) 文語カテゴリ 人間選者 髙良真実さんによる選評の発表です。
(髙良真実さんより発表原稿をお預かりして、短歌マガジンより発表させていただきます)
【文語・自由詠】
・特選
はやりをのダビデのごとき肉叢ををぐなの吾のひそと見てゐき
/ 敦田眞一
「はやりを」は血気盛んな男子、精悍な男性の意味があります。ダビデはミケランジェロのダビデ像のイメージでしょう。「をぐな」の方は若い男で、「はやりを」と対置されています。上句は同じような意味の言葉が重ねられていて、ひとつだけでも意味は伝わるかもしれません。しかし、ひとつだけでは圧倒されている感覚を伝えることができない。結句の「ひそと見てゐき」までを含めて、肉体に圧倒される感動が伝わってきます。
・選外佳作
白山の切通坂をくだりきて辯天と聞く山のにぎはひ
/ 檜山省吾
東京都港区には愛宕山と愛宕神社があります。おそらくその山のことかとは思いましたが、切通坂から神社までは1ブロックほど離れています。実際の距離感と、歌の中の距離感が符合しない点で、すこし引っかかりを覚えました。歌からはテキ屋のいる風景などを想像するのですが、実際の愛宕山はそんな感じではなかったような……。いずれにせよ、群衆を不快なものではなくうれしげなものとして描写している点はよいと思っています。
【文語・テーマ詠「桜花」】
・特選
あと一歩ピントの合はぬすゞらんの揺れて触れたる香りのかたち
/ 塩本抄
結句が秀逸です。このカメラはふつうのカメラでしょうけれど、顕微鏡の対物レンズをまず近づけるときのような緊張感があります。対物レンズは近づけすぎるとプレパラートが割れてしまいます。しかし「すゞらん」はやわらかくて、触れただけでは割れることはありません。結句はそのやわらかさを表現する点でも成功しているように思います。
・選外佳作
人のない河辺に君と座りゐて花は降りにきただ広き背に
/ まちのあき
結句の言いさしは倒置ですが、その倒置が見得を切るような感じではなく、さりげなく言い添えるものとなっている点が良いと思います。背面に視点を置いているからでしょうか。また「降りにき」と詠嘆ではなく抑えめに描写している点も、清潔な印象を与えています。
【文語・3月自選】
・特選
該当作品なし
・選外佳作
Floraと春に呼ばれて振り向きぬイタリア語より吹くつむじ風
/ 塩本抄
花のかおりから春に呼ばれた感覚を描いていると思うのですが、それが「イタリア語」の形をとっているのがなぜか。そこに必然性を感じられればもうすこし良い歌に見えたように思います。
(選評・髙良真実)