第8回毎月短歌・文語カテゴリ発表(ゆうこ先生の添削つき)
次世代短歌・文語部のみなさんこんばんは。毎月短歌「文語カテゴリ」の結果発表です。歌人・小川優子さん選による発表は、添削コメント付きとなります。
文語部門、小川優子さんの選を発表します。
賞は、文語部長賞と、文語副部長賞の2種類です。
今回は「ゆうこ先生の添削コメント」という形で作品をよりよくするためのご指摘とアドバイスをいただきました。添削コメント中の太字+斜体は問題点の指摘箇所です。
■自由詠部門(文語)
文語部長賞
冬のみづをぐつとふふめる甘藍のまろきにはつか手のしづみたり
/敦田眞一
ゆうこ先生添削コメント:
冬のみづをぐつとふふめる甘藍のまろきにはつか手のしづみたり
「に」という助詞は難しいものです。今回も対象の「に」なのか、原因の「に」なのか、文法的には判断しにくいものでした。もちろん「丸いから手が沈む」ということはないので、対象の「に」なのでしょうけれど。今後は慎重に使ってみましょう。しかしながらそれ以外は、言葉選びにもセンスがあり、五感に訴えるリアリティと躍動感が素晴らしく、とても生きた作品となっています。
文語部長賞
骨上げの灰に交じりて小石あり燃え残りしか秘めたる想いの
/塚本直生
ゆうこ先生添削コメント:
骨上げの灰に交じりて小石あり燃え残りしか秘めたる想いの
状況説明がないのに場面がありありと浮かぶ良い作品です。三句切れによって「小石」の持つ重要性が強調されるところも巧いです。しかし惜しむらくは、下句が倒置になっているせいで、一首が3パーツに分断されてブツ切れ感が出てしまったことです。「秘めしおもひの燃え残れるや」としましょう。「たる」は存続なので亡くなった方には向きません。「想い」ではなく「おもひ」と書くことで掛詞(思と火)になります。
文語副部長
ゆで玉子しみじみ味わう父にとり戦後は今もすぐそこにあり
/塚本直生
ゆうこ先生添削コメント:
ゆで玉子■しみじみ味わう父にとり戦後は今もすぐそこにあり
目的語のあとの助詞は省略できません。ゆで玉子「を」が必要です。そうすると字余りになるのが嫌なら、「煮玉子」にしておいてはどうでしょう。「味わう」は単に仮名遣いの問題です。「味はふ」。ほかは問題なく、気持ちの伝わる歌です。
文語副部長賞
きみが手にからめとられし身とこころ装ふからくれなゐのつま紅
/睡密堂
ゆうこ先生添削コメント:
問題点はありません。色っぽくて素敵な相聞です。一位に選ばなかったのは、ありがちな設定による既視感と俗性を感じたからです。自分しか知りえないようなエッセンスがあれば完璧になります。
文語副部長賞
春風がだいこんの花くすぐりて紫の波立つゆふまぐれ
/あおいそうか
ゆうこ先生添削コメント:
春風がだいこんの花■くすぐりて紫の波立つゆふまぐれ
文語では「が」という主格はありません。また目的語の助詞は省略できませんので、だいこんの花「を」が必要です。あとは美しくて季節感のある詩的な作品です。
文語副部長賞
透明な花になりたやかのひとにきづかれぬまゞそばで咲きかをる
/古井朔
ゆうこ先生添削コメント:
透明な花になりたやかのひとにきづかれぬまゞそばで咲きかをる
文語では「で」という場所の助詞はありません。ひらがなが続く部分が読みにくいです。「なりたや」よりは「なりたし」の方が良いでしょう。あとは美しくて素敵な相聞です。個性もあり、発想も良いですね。
文語副部長賞
六道の辻に彷徨ふ亡者とも見えて哀しき徘徊のひと
/祥
ゆうこ先生添削コメント:
文法的には問題ありません。状況も気持ちもわかります。ただ、この「ひと」が作者にとってどういう人なのかが見えなかったので感情が移入できませんでした。
■テーマ詠「地獄」
文語部長賞
あのひとを道連れにして地獄まで堕ちむとおもふけふは満月
/あおいそうか
ゆうこ先生添削コメント:
文法的に問題はありません。「おもふ」が連体形で「けふ」にかかるのか、四句切れなのか判断がつきかねますが。句切れにしたいなら、こういう時こそ一字空けが効きますよ。いずれにしてもちょっと不穏だけれどなんともかわいらしさも覗く作品で、私はとても好きです。
文語副部長賞
人はなぜ天を仰ぐや先見えぬ透明で重い闇の中から
/明眼子
ゆうこ先生添削コメント:
人はなぜ天を仰ぐや先見えぬ透明で重い闇の中から
「透明で」というところだけ口語が目立ってしまいバランスを崩しました。内容も、闇から天を仰ぐのは不思議なことではないので「なぜ」が生きません。それでもどこか社会詠的で現在性を感じるので選びました。
文語副部長賞
沈みゆく鯨は報ひを受け入れて宴のやうに食はれてをりぬ
/塩本抄
ゆうこ先生添削コメント:
沈みゆく鯨は報ひを受け入れて宴のやうに食はれてをりぬ
どうして「沈みゆく」のか、鯨が「宴のように」食われるとはどういうことなのか、意味がわかりませんでした。それでもなんともいえない不思議な詩を感じたので選びました。
文語副部長賞
(編註:作者より削除依頼あり削除対応しました 2024.4.12)
■2月の自選
文語部長賞
邯鄲の夢の後目を生きてをり美しき死を粟粥に問ふ
/檜山省吾
ゆうこ先生添削コメント:
夢を尻目に見るならわかりますが、後目を生きるというのがわかりませんでした。「跡目」の間違いであれば納得がいきます。それでも、一首全体に漂う雰囲気は素敵ですし、よくわかります。はかない夢のひとときが終わってしまい、いっそきれいに死んでしまいたいんですよね。失恋かな。相手を憎んだり、自分が醜くなる前に消えてしまいたいと。物語性があって良いですね。さらにこの歌の巧いところは、付き過ぎとわからない程度にしっかり縁語をしのばせたところですね。邯鄲の夢=一炊の夢。一炊よりもさらに余熱を浴びている作者が見えて切なくも天晴れです。
文語副部長賞
切られずに木乃伊となりしあぢさゐの枯れ枝にいこふ春告鳥
/睡密堂
ゆうこ先生添削コメント:
切られずに木乃伊となりしあぢさゐの枯れ枝にいこふ春告鳥
結句の字足らずと体言止はいただけません。「春告鳥は」にしましょう。枝は現存するので「し」は使えません。「なりたる」です。おもしろくて意味も深そうな作品です。
文語副部長賞
かいもなくつつ闇をゆく月の舟待つ人あればやみをつくしける
/かがり
ゆうこ先生添削コメント:
かいもなくつつ闇をゆく月の舟待つ人あればやみをつくしける
ベニスのゴンドラに私も乗りました。イメージが浮かびます。「かい」をひらがなにすることによって掛詞がよくわかります。結句の意味は不明でした。
文語副部長賞
真白き蛾紅きほむらに飛び込みて燃え果つごとき恋に焼かれつ
/あおいそうか
ゆうこ先生添削コメント:
真白き蛾紅きほむらに飛び込みて燃え果つごとき恋に焼かれつ
結社「かばん」の方でしょうか(笑) 「燃え果つるごと」に直します。「ほむら」「燃え」「焼かれ」は重複が過ぎます。それ以外は、雰囲気よく色彩も美しい作品です。
文語副部長賞
みずうみのあをに染まりしカモメをり 鳥の行方は誰も知らない
/山崎なお
ゆうこ先生添削コメント:
若山牧水へのオマージュでしょうね。どちらにも染まれないのもつらいけれど、一方に染まってもまた別の切なさがありますよね。なんか心に響きます。
(編註:選者と作者で同意の上コメントの一部を削除しました 2024.4.10)
文語副部長賞
もうじきに雪降るだらう除雪機が虎のポオズで待ち構えおり
/水川怜
ゆうこ先生添削コメント:
もうじきに雪降るだらう除雪機が虎のポオズで待ち構えおり
北国ならではのリアリティと特色があって高感度マックスでした。仮名遣い気をつけましょう。
■文語連作部門
連作部門は 連作部長賞該当なし
連作副部長賞
「花弁の白き花」 古井朔
[連作作品]
「花弁の白き花」 古井朔 春風にゆらぐ蕾《つぼみ》の膨らみは恋の命の埋火《うずみび》抱え 恋といふなごり雪とけ愛といふ蕾よひらけ眩《まぶ》しき春に 想い出も残らぬ恋よ忘れ去り春野に咲くは、白き花弁の 春風にそよぐ花弁の白き花 心ゆくまで今、咲き誇れ ひそやかに桜蕊《さくらしべ》ふる朧夜になぜだか浮かぶきみの笑顔が 花散らす雨になりてや別れ花しのぶもぢずりたれゆゑみだれ こぼれなばこぼれ消えゆく春の夜につきよみおぼろに流れゆく 薄紅《うすくれなゐ》の波かとぞ思ふ和煦《わく》の日に静心《しづこころ》無く我も散るらむ
ゆうこ先生添削コメント:
結句の言いさしはよほど余韻を必要とするときの切り札です。一字空けや句読点も特殊なカードです。乱発しないように。「想い出」→「思ひ出」、題名も工夫が必要です。
以上、第8回毎月短歌・文語カテゴリ、小川優子選の発表でした!
ひきつづき「毎月短歌」への投稿、お待ちしています(毎月開催しています)
[文語短歌勉強会]
■小川優子さんによる文語短歌の勉強会
毎月短歌8、小川優子さんによる選評発表は以上です。
短歌マガジンよりご案内です。今回文語カテゴリの選と添削コメントをいただいた、小川優子さんに、文語短歌についての勉強会を開催していただいております。
4月スタートですが、はやめに申込みしていただければまだ間に合います。興味ある方は、詳細ご確認いただいて、参加ください。
【文語旧かな 短歌の作り方勉強会(講師:小川優子さん)について詳しくはこちらをご覧ください】