「期待してなかったけど面白かった映画」を短歌にしました - A短歌会:映画短歌空間
A短歌会の中で結成された「映画短歌空間」のメンバーで、それぞれ「期待してなかったけど、観たらめちゃ面白かった映画」を短歌にしてもらいました。
・はゆき咲くら『PLANET OF THE APES/猿の惑星』
・御影『エリザベス』
・水の眠り『ドライブ・マイ・カー』
・瑞野明青『チェルノブイリ1986』
・深水英一郎『マリグナント 狂暴な悪夢』
今回の編集担当は、はゆき咲くらです
はゆき咲くらの期待してなかったけどめちゃ面白かった映画!
『PLANET OF THE APES/猿の惑星』
一言でいえば、猿と人間が入れ替わった世界のお話。ある程度の予想はつくとは思うのですが、予想できるけれど裏切られる、裏切らないけど予想を超える、それが、「PLANET OF THE APES/猿の惑星」です。
かれこれ20年近く前に映画館で観たときの、、あの恐ろしさといったら、もう!
最近はYouTubeでもレンタル出来るようで、大画面でなければ心臓はもつかと。
そして、期待していなかったのに、期待を超えたのが、CGでは不可能なオリジナル特殊メイク。なんといっても、俳優ティム・ロス 演じる、猿の将軍セードの迫力といったら…。あの凄み、あの睨みは、今でもトラウマになるくらいの見応えです!
賛否両論ありますがラストシーンも衝撃的。監督は奇才ティム・バートン。個人的には好きな監督のおひとりなので他にもおススメ映画はありますが、今回はこれで短歌を詠ませていただきます。
人間か猿かどちらに生まれてもだれでもなくて花はきれいで/はゆき咲くら
はゆき咲くら>占いとスピリチュアル。仕事も趣味もそれだけだったある日、ふと目にした短歌に恋をする。短歌に心奪われて以来、祈り、花を愛でる、一日一短歌。A短歌会に参加しています。@8yuki_3kura
御影の期待してなかったけどめちゃ面白かった映画!
『エリザベス』
地方の野の中で侍女たちと過ごしていた日々から一転、エリザベスは25歳の時、女王に担ぎ上げられる。そこから立ちはだかる宗教問題、争い、政略結婚とストーリーと彼女の人生は押し流されるように進む。
展開は重く、人々の思惑は絡み合い、笑顔で腹を探り、そしてエリザベスはどんなに気丈でも一国の統率者の前に「ああ女か」という目を向けられる。
しかしその全ては、彼女が大きな決断の後、王座に座るラストに集約されている。
真っ白な顔の固められたごとき化粧は、男も女も人間らしさもなくただ君主として統治するというシンプルで強い覚悟を感じる。
観るほどに重く、光はあれどハッピーエンドと呼べるか難しい今作。気軽な映画ではないかもしれないが、その中を力と意思で泳いでいく一人の人間をしっかりと見つめてほしい作品である。
家族って何なのかしら いつまでも 血の繋がってるただの他人よ/御影
白粉の仮面を付けて 栄光と繁栄携え玉座に座る/同
御影(みかげ)> 愛や死などをテーマにした短歌・細かな模様のペン画イラストを創作し、Xで発表しています。A短歌会参加中。@dmy81011202
水の眠りの期待してなかったけどめちゃ面白かった映画!
『ドライブ・マイ・カー』
村上と言えば龍の作品を好んで読んでいたので、村上春樹氏の作品はほとんど読んでない。
『ドライブ・マイ・カー』は村上春樹著作の短編集『女のいない男たち』を原作として撮られた映画だ。
物語に出てくる俳優で舞台演出家の家福は、脚本家の音と夫婦である。お互いを尊重し愛し合っている。ところが、音の浮気現場を目撃してしまう。それでも、心地よい関係を壊したくない家福は、なかったことのように振舞う。一方、音は「話したいことがある」といったその夜、くも膜下出血で急死してしまう。
二年後、家福は広島国際演劇祭に演出家として招聘される。奇しくもチェーホフの『ワーニャ伯父さん』だった。音が生前台詞を覚えるためにカセットに吹き込んでくれた抑揚を極力抑えたテープが家福の真っ赤なサーブの中で延々と流れる。ドライバーは、寡黙な女性で一切、プライベートなことに立ち入ろうとせず完璧な運転をこなすみさき。
三時間という長尺ではあるが、喪失感を抱えた家福と、心に解き放つことのできないものを抱えたみさきの距離を縮めるのに三時間という時間は必要だった。と監督の濱口竜介氏の談。
どんなに愛している人でも、その人の全てがわかったとは思わない。わかったと思うことは傲慢ではないかとさえ思う。なぜなら、自分だってその時その時の顔があり、バランスを保ちながら生活をしている。何が本当の自分なのか、本当の自分とはそれらも含めた自分なのか。問いは続く。
映画はラストに向かって、家福の、みさきの、聴衆の心を裸にしていく。
生きることは、辛いこと。でも生きていくのはなぜか…
チェーホフの台本とリンクしながら問いが追いかけてくる。
魂を救える答えなど映画の中にはありません。
ただ、立ち止まって考えるだけです。
さて、皆さんは、この映画をどう観られますか。
固い繭赤いサーブの道程はゆるやかに解き両手でつつむ/水の眠り
真実は大切ですかそんなにも方程式はとけなくていい/同
水の眠り>「さみしい夜の句会」に詩歌を発表するようになり様々な形を楽しんでいます。また、映画と音楽と小説が大好物です。@mizunonemuri1
瑞野明青の期待してなかったけどめちゃ面白かった映画!
『チェルノブイリ1986』
友人に面白そうだから、見に行かないかと声をかけられて見に行った映画です。チェルノブイリ原子力発電所の消防士と元恋人のシングルマザーのラブストーリーでもあります。
タイトルの通り1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故が、物語のメインです。たまたま子どもたちが冒険にでかけた原子力発電所がその時、光を放って爆発します。ただこのことは伏せられて、何が起きたのか住民にはよくわかっていません。その後ようやく事態の深刻さを理解した政府は、住民の集団避難を行います。パニックの中、限られた情報を頼りに避難する人たちの困惑が、よくわかって辛かったです。
事故を目撃した子供の中にこの二人の子供もいました。子供をきちんと治療させたい、恋人も安全なところに送り届けたい、そんな思いが原子力発電の爆発で壊れて漏れ出した燃料の水蒸気爆発を止めるための決死の作戦に、名乗りを上げることになります。
一番怖かったのは、発電所の爆発の消火に向かう消防士たちの装備の貧弱さだったり、次々と倒れていく姿だったりします。それでも発電所を守るため、排水のためノブにたどり着けるのかというヒーローものでもあるので、結構熱く見ることができました。
医療に関わる人達の献身ぶりと政府の上層部の無責任さとかも丁寧に書かれていて、福島の原発事故にまつわる話と比べてみるのもいいかもしれないです。
君とまたともに歩むと決めたなら未来を示して夢を見守る/瑞野明青
瑞野明青>好奇心のおもむくまま、色々なことに手を出します。サッカー観戦で日本中だけでなく海外も。歴史好きなので聖地巡礼も。その色々なことを短歌や文章にしたためます。@inonagapenchan
深水英一郎の期待してなかったけどめちゃ面白かった映画!
『マリグナント 狂暴な悪夢』
実際に見比べると全然違うんだろうけど冒頭名作映画『セブン』っぽいオープニングではじまる。音楽も映像もスリリングかつ猟奇感あっていい雰囲気なんだけど、わたしは心の狭い観客だから『セブン』ぽさの方がどーしても気になってしまう。
パクってるんじゃないのこれ、という意識から、B級映画じゃないのこれ、という意識にどうしても引き込まれていってしまう。しかしそれは、監督の策略なのだ。役者さんの演技もなんかちょっと大げさな感じで、B級感を煽る。
そう、いっこいっこがなんかとても大げさなんです。それが微妙なB級感を加速させる。でもセットやCGはすごくちゃんとしていて、無駄にクオリティが高く予算もありそう。なので映像をみていてすごくギャップを感じます。
これもきっと、監督の策略なのです。
このトリックは、絶対見抜けないとおもう。
中盤以降は逆転に次ぐ逆転の急展開。アクションもはちゃめちゃに加速。謎があきらかになっていくにつれ、よくこの発想を映像化しようと思ったなと感動するほど。
最初B級映画って思ってごめん。ほんと裏切られました。
ねじ込んだ封印を解き大逆転そこまで逆にしちゃうんですね?/深水英一郎
深水英一郎>短歌投稿サイト『コトバディア』管理人 @fukamie
映画+短歌の紹介は以上です。この記事を読んで気になった映画があればぜひぜひ鑑賞してみてください!
■「映画短歌空間」について
映画短歌空間は、「A短歌会」の映画好きメンバーでおこなっている活動です。映画の試写に参加して新作映画をいちはやく短歌にして紹介したり、過去の名作を短歌+散文で表現したりしています。興味ある方はA短歌会にご参加ください。配給さん、代理店さんなど、映画・映像作品を短歌で紹介してもいいよ、という方からのご連絡をお待ちしております。(メールで tankazine@gmail.com までご連絡ください)