ネットの短歌創作コミュニティ「A短歌会」の初心者短歌1・2年生グループで繰り広げられているQ&A企画「歌人だけどなんか相談ある?」より、後輩歌人の質問と先輩歌人の回答を抜粋してお届けします。
本日の先輩歌人
●上篠翔(かみしのかける) @kamisinokkk
玲瓏所属。粘菌歌会主催。2018年、第二回石井僚一短歌賞受賞。2021年、『エモーショナルきりん大全』(書肆侃侃房)刊行。インターネットをやっています。
著書 歌集「エモーショナルきりん大全」(書肆侃侃房)
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後輩歌人からの質問「本歌取りが謎です」
※編注:後輩歌人の筆名は伏せております
上篠翔(かみしの)さん、はじめまして。質問させていただきます🙇 短歌歴浅く、ここ最近は、知らない技法がやたらと目にとまります。句またがりもようやくなんとなくなところに、つい最近も、「本歌取り」のという言葉を目にして、とても気になっています👀✨ 枕詞とも、引用とも、どうも違うようですし、謎です。はっきりとした定義はないのかもしれませんし、すぐさま初心者には理解できない難しいことかもしれませんが、 本歌取りとは、どのようなことか、教えていただけませんか? この機会に基本的なことを把握しておけたら嬉しいです。 ※自分で検索するなどして調べたところ、本歌取りとは、和歌を作る技法の1つで、有名な和歌を本歌としてふまえて、その内の1句あるいは2句くらいを自作の短歌などに取り入れて歌を作る、とか、歌の中に同じ言葉が一つや二つあっても、それだけでは本歌取りとはいいません、などと、あり、奥が深いんだろうなぁとは思うのですが。 どうぞ宜しくお願いいたします🙇
上篠翔先輩の回答
はじめまして。
本歌取りとは敬意のある引用リツイートのことです。オマージュとほとんど同じ技法である、とひとまず考えていいと思います。
現代短歌ではあまり例がないのですが、例えばこんなパターンは本歌取りと言えると思います。
本歌:ふるさとの訛なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく(石川啄木)
作品:ふるさとの訛りなくせし友といてモカ珈琲はかくまで苦し(寺山修司)
短歌以外で考えるとすれば、adoの「うっせえわ」はチェッカーズの「ギザギザハートの子守唄」の本歌取りです。米津玄師の「死神」は古典落語「死神」の本歌取りだし、古典落語「死神」はグリム童話「死神の名付け親」の本歌取りです。このように、先行する作品の世界や文化をリスペクトを込めて引き継いでいく、というのが本歌取りです。
本歌取りは新古今和歌集が編纂された時代からよく見られる技法で、和歌の歴史に対してとても重大な意義があったのですが、ここでは省略します。
現代では、本歌取りはかなり難しいと思います。本歌取りが技法として可能だったのは、それまでの膨大なデータベースが勅撰歌集(古今和歌集とかです)にまとまっていて、かつ短歌のプレイヤーがデータベースを網羅していたからです。いま、現代短歌を網羅するようなデータベースはありません。つまり「この短歌からの引用だって説明しなくてもみんなわかってくれる」短歌はほとんどない、ということです。本歌として使ってもよさそうな歌は、俵万智さんの「サラダ記念日」や岡本真帆さんの「ずぼらだし」がぎりぎりだと思います。みんながわからない本歌取りはオマージュではなくパクりになってしまいます。また、現代には著作権という実際的な問題もあるので、不用意な引用はトラブルの元になります。先ほど例にあげた寺山修司は本歌取りの達人なのですが、「盗作」ではないのか、と論争になっていたりもします。
尊敬と失礼の境はどこなのか、というのはかなり常識に依拠するところですが、一応藤原定家がルールを明記しています。ルールというよりも盗用にあたらないための最低限のガイドライン、という方が正しいのかもしれません。まとめると、だいたい次のような感じです。
1.引用するのは二句程度に留める
2.主題は違うものにする(本歌が恋なら、引用した歌は自然への感動についての歌にする、など)
3.時代の近いものからは引用しない
3については、現代ではあまり考えなくてもいいかもしれません。現代では短歌からだけではなく、ジャンルを横断した、例えば歌詞からの本歌取りも有り得ると思います。ただ、やはりリスペクトは欠くべきではなく、「詞書」(短歌の右側につける小さい補足の文字)をつけて本歌を指し示す、というのもありだと思います。
加藤治郎さんの『短歌のドア』にはこうした技法がまとめてありますので参照してみてください。
(回答・上篠翔)
先輩歌人にお悩み相談について
オンライン短歌創作コミュニティ「A短歌会」の、初心者限定グループで開催される企画です。先輩歌人を招いて、期間限定で自由にお悩み相談ができます。今回の質問期間は2024年1月8日から1月14日までの1週間の予定です。