第2回AI歌壇、人間選者 杉谷麻衣さんによる選評の発表です。
(杉谷麻衣さんより発表原稿をお預かりして、短歌マガジンより発表させていただきます)
また、杉谷さんのツイキャス #ラジこた でも、AI歌壇より、良いとおもう短歌の発表&コメントがおこなわれました。こちらにアーカイブがありますので、きいてみてください!
■自由詠部門 杉谷麻衣選
特選Ⅰ
イヤホンの線に身体を繋いでは輸血のように聴いた音楽/あひる隊長さん
過去形によって語られる、若いころの、どこか懐かしさを感じさせる歌だと思います。
「輸血のように」という比喩は絶妙で、もちろんイヤホンのコードと点滴のチューブが、映像として重なるというのもありますし、ある音楽が主体にとって、生命の維持のために必要不可欠であるという、どこか切迫した印象を強く与えてきます。
このあたりも、最初に述べた「若さ」のイメージと繋がるのでしょうか。
どこかに生きづらさを抱えていて、でもどこかに一瞬の輝きがある、そんなかけがえのない人生のひと時を、見事に切り取っていると感じました。
特選Ⅱ
月の夜どこでもドアをノックするそこに帰つてかまひませんか/高田月光さん
「そこ」とはどこなのでしょうか。
もしかしたら主体にも分からない場所なのかもしれません。いや、それはもしかして「場所」ではないのかも知れないですね。
主体にとって帰りたい「そこ」には、「帰ってもかまひませんか」と尋ねる相手がいなければいけない。それはもしかしたら何らかの原因で別々の道を歩むことになった、大切な人かも知れません。
夢と現実の狭間を迷うような浮遊感がこの歌にはあると思うのですが、その不思議な感覚はきっと、場面設定とモチーフ選びの力によるものだと思います。
願いが叶いそうな不思議なパワーを秘めた月の夜。
そしてあまりにもみんなが知っているせいで、本当に存在するんじゃないかという錯覚に陥りそうな「どこでもドア」。
主体は自分が本当に望むものを、もしかしたらそんな「どこでもドア」に教えてほしいのかもしれないなという気もします。
■テーマ詠部門 「ちいさな嘘」
特選Ⅰ
お父さん、嘘つきだったねありがとう 本当は無敵じゃなかったんだね/さとうきいろさん
何一つ難しい言葉も表現も使われていない、とても自然な口語の歌。
一見父への感謝の気持ちを詠んだように見えて、心が温まる感じがする一方で、ドキリと響く読後感があります。
主体は子どものころ、よく父と「戦いごっこ」などをしたのでしょうパンチをしてもキックをしても「ハッハッハ、父さんは無敵だからな!」と笑っていた父の姿が思い浮かびます。
それは「嘘」とも呼べないほどの嘘かも知れません
成長して、自分が当時の父の年齢に近づけば近づくほど、家族を持つことや、社会の中で生きていくことの大変さが分かってきます。
本当はいつまでも無敵で、時には自分を守ってくれるような存在であってほしかったはずの人が、老いたり弱ったりしてゆく姿を目の当たりにする怖さ、辛さ、悲しさ、そしてそれを超えて出てくる「ありがとう」の言葉。
嘘とも呼べないほどの小さな嘘。なのに嘘だったという現実を突きつけられた時の、胸にくる大きな痛み。
その対比も、この題の魅力を存分に生かしているポイントだと感じました。
特選Ⅱ
やれないをやらないことに置き換えて色褪せてゆく黒いTシャツ/鈴木ベルキさん
自分についた嘘を詠んだ歌の中でも、特に目を引いた一首。
本当は「やれない」なのに「やらない」と強がってしまうこと、またその逆も日々の生活の中にはたくさんあると思います。
1文字を入れ替えることで、自分を騙しだまししているうちに、本来の自分を失っていく様子が、色あせていくTシャツによく表れていると思います。
また、色あせるのだからおそらくはコットンの、そして黒のTシャツは、日常生活の中に、ごく自然に当たり前に存在するものですよね。
「持っていない」という人はほぼいないだろうと思います。
黒Tの、そんな「ありふれた感」が、このように、たった1文字分だけ自分を騙すことが、それこそ黒の綿Tシャツのように、日常の中に当たり前のように「あるよね」という共感にも繋がっているように感じます。
歌にどのようなアイテムを選んで詠みこむか、それを考えることの大切さを、改めて感じさせてくれる歌だったと思いました。
以上、人間選者 杉谷麻衣さんによる選評でした。
AI歌壇の説明ページはこちら。みなさんの参加をお待ちしております。