第1回AI歌壇、人間選者 からすまぁさんによる選評の発表です。
(からすまぁさんより発表原稿をお預かりして、短歌マガジンより発表させていただきます)
自由詠部門 からすまぁ選
特選
妙音 星を眺め過ぎた彼女は正二十面体の展開図/音羽
「妙音」とは非常に美しい音声、音楽のこと。星を眺めていると星の声が聞こえるように錯覚するのだろうか。あるいは、展開図となった彼女から聞こえてくるのだろうか。「わたし」が展開図のようだ、と言うのではなく「彼女」とすることで、体感としての展開図だけでなく景色としての展開図が見えてしまう。更にそこから声が聞こえてきているとしたら。なんて奇妙に捻れた立体的な表現なんだろうと感じました。
次席
境目に凝る自己愛しゃりしゃりを混ぜて飲み込むクリームソーダ/ぐりこ
クリームソーダに自己愛が凝ってるという気づきがすごい。確かに可愛い飲み物を飲むときの人間は誰しも多少は自分が可愛いのかも知れません。自分自身を冷静に分析しているのかも。「自己愛」と「しゃりしゃり」が隣接しているのも何気に怖くていいなと思いました。
気になるで賞
みんな死ぬ死ぬがせいぜいとりどりの死まで生きよと願う教室/ef
みんな死ぬ、という常識を死ぬがせいぜい〜と即座に切り返す、2人の掛け合いのようなリズムが面白いと思いました。
最終の電車に揺られてチェロ弾きとチェロは同じ角度で眠る/ZENMI
現代の景色の話なのに、どこか童話のようでいいなと思いました。
永遠はここにあるって信じてた同じ天井臨む背泳ぎ/くぼたむすぶ
二人で背泳ぎをしていることをこう描くのか、と新鮮でした。天井は確かに仰向けで眺めていると永遠に続いていそうです。
私には置いていけない人がいる むらさき残る皿を洗って/虚光
食べ物の何かなのでしょうが、「むらさき」と色で言われるとドキッとします。紫色が持つイメージ(嫉妬など)と相まって。
夕焼けがからだをめぐる あのひとに触れていいなら影になりたい/高田月光
恋うる相手の体の一部になりたいという表現はよく見かけますが、人間が影の代わりをしたいというのは独特で惹かれました。
はるのひる練乳なめてゐる童女そらは魔物が出さうな青さ/秋月祐一
はる、ひる、ゐるの響き合いからして不穏。全体の雰囲気がコントロールされきった不気味な一瞬だと思いました。はるのひるってこんなにおどろおどろしい韻律になるのだなと。
気づいたら海はそこまでやってきて蝉は明日がはじまりみたい/淡島けのび
明日から蝉が鳴くだろう、ということなのでしょうが、その独自性ある言い方に惹かれました。どちらかというと蝉視点というか。面白くて好きです。
いつまでもおたまじゃくしのままでいる夏をあなたと泳ぎ切りたい/碧乃そら
成長を拒んでいることを「おたまじゃくしのままでいる」とし、その比喩のまま「泳ぎ切りたい」と突き抜ける強さが快いと思いました。
テーマ詠部門「針」
特選
手を挙げて無言の同意を否定する君は誰かの避雷針だよ/猫背の犬
強めの比喩なのにありありと景色が浮かびます。学級会あるいは何かの会議でしょうか。雰囲気のままに賛同するのは容易いなかで、場に流されることなく手を挙げて異見する人物がいた。きっとそれに救われた言い出せなかった誰かがいるはず。けれども議論の矢面に立つのは手を挙げた人物でしょう。
物語を短歌に込めようとするのは難しいですが、この歌はまとまっていていいなと思いました。かっこいいです。
次席
秒針は刃でもあり夕焼けへ診療所の影ながく伸びゆく/石村まい
順番待ちをする人を刻々と刺しゆく刃なのでしょう。夕焼けが美化する景色のなかで、列に並ぶひとりひとりが抱える問題は小さくはないはず。針については最初に言い切って残りは描写に使うなど、上手く纏められた一首だと思います。
気になるで賞
密やかに結晶はのび不可算のきらめく針をはらむ晶洞/ef
実験で作った結晶を見たことがあるので、確かに針のようだったなと納得の比喩と思いながら読みました。不可算のきらめく針、鉱石の持つ魅力が伝わってくる一首です。
しんしんと針葉樹林は短長の葉を傾けて時間を刻む/アカマツヒトコ
時間と樹林と、両方の針のイメージが上手く調和している一首だと思いました。
慎重にあなたを愛す 針の穴に糸を通す片目のように/ながしまけんた
針の穴に糸を通すように、ではなく片目のように、がいいなと思いました。愛するのは自分。見極めるということでしょうか。
白猫の被毛のやうな針をもつさぼてんだからキスしてしまふ/高田月光
さぼてんに繋がる繊細な描写、その果ての強引な接続詞「だから」がいいと思いました。
秒針の反動とともに進みゆきあの日きみがした腹筋を想う/畳川鷺々
そう言われると腹筋ってどこか艶っぽい瞬間もあるなと。秒針の進み方に反動を見出す視点がリアルでいいなと思いました。
以上、人間選者 からすまぁさんによる選評でした。
受賞された方、おめでとうございます!
次回、第2回AI歌壇のページはこちら。みなさんの参加をお待ちしております。
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