文語部門、小川優子さんの選を発表します。
賞は、文語部長賞と、文語副部長賞の2種類です。
■自由詠部門(文語)
文語部長賞
つま紅はぬばたまの黒ゆるされぬ恋うづみ火として忘るまじ
/睡密堂
コメント:
紅なんだけど、黒。おもしろいですね。口語なら気にならない句跨りが気になりました。意志を表す助動詞が少しダイレクトに感じました。しかし、全体的には詩的で美しくありつつ気持ちもじゅうぶん伝わって好感が持てました。
文語部長賞
ももづたふ翡翠の嘴《はし》を八十ばかり連ねたかずら今ぞ盛りは
/ef
コメント:
「かづら」ですね。「連ねた」も「連ぬる」ですね。しっかりと観察描写をともなった美しい一首です。
文語副部長
はやりをのダビデのごとき肉叢ををぐなの吾のひそと見てゐき
/敦田眞一
コメント:
スターにあこがれていた少年時代の回想でしょうか。「の」の使い方の複雑さと多さが少し目立ちました。気持ちや様子はよくわかり、主体に愛しさを感じました。
文語副部長
喰ひやぶり撒きてさらさら喰ひ破る鴉の黒眼は時雨に燃ゆらむ
/檜山省吾
コメント:
この「さらさら」は副詞の「さらに」でしょうね。だから動詞を重ねたわけですが、漢字に変えた。これは効果的でしょうか? 結句が惜しいですね。現在推量を使ったことによってライブ感がなくなってしまいました。視点はとてもおもしろいだけに惜しいです。
■テーマ詠「桜・花」
文語部長賞
人のない河辺に君と座りゐて花は降りにきただ広き背に
/まちのあき
コメント:
とても好きな作品です。文法語法的に二か所直すととてもよくなります。下句の切なさがグッときます。
文語副部長賞
春の闇ものやはらかくひろがりて白く妖しく梅の香ぞする
/碧乃そら
コメント:
光景が目に浮かびます。さらにかおりも漂ってくるし、色彩も豊かなのでとても魅力的です。
文語副部長賞
散りゆくは命あるもののさだめぞとおぼろかに匂ふ春驟雨《はるしゅうう》
/碧乃そら
コメント:
結句の字足らずがもったいないです。あとはとてもステキ。桜を散らす雨が語る世の掟が、良いテーマです。
文語副部長賞
疾風《はやちかぜ》ももいろの蕾ふくらかす今漕ぎいでな春の三日月
/碧乃そら
コメント:
あー、三日月をゴンドラに見立てたのですね。詩的です。目的語のあとの助詞は省けません。主語と目的語が区別される必要があります。
文語副部長賞
万象のはららぎにける夕彩に花盗人よ疾く疾く来ませ
/畳川鷺々
コメント:
裏の意味が魅惑的ですね。気になる表現がいくつかありますが、内容は良いと思います。
■3月の自選
文語部長賞
春昼の陋巷にをり何事も無き人のごと無き顔をせり
/檜山省吾
コメント:
なかなか面白いです。「無き顔」をするというのは、実際には「ある人」なわけですから、この表現は深いですよ。背景になる舞台の設置も巧いですね。
文語副部長賞
水茎《みづくき》の涙さきたつ心地《ここち》して書けぬ想ひを如何にか伝へむ
/古井朔
コメント:
全部言いきってしまったところが惜しいですが、丁寧に言葉選びがなされていて、詩的で上品かつ音の配分も良いです。
文語副部長賞
小糠雨ひそけき闇夜に躑躅落つ ふれることなき記憶のやうに
/古井朔
コメント:
パワーワードに頼りすぎるのはよくありませんが、言いたいことはまあ伝わります。一字空けに依存すると表現が甘くなっていく危険もあります。いつの間にかポトリと落ちている躑躅が(実際にはめったにありませんが)下句と合っていますね。
(選者:小川優子)