第7回毎月短歌、連作部門の入賞者を発表します
一席:「light during the daytime」(とらうと)
二席:「無声動画」(石村まい)
三席:「朝靄の楽章」(水也)
選考:長谷川麟
■受賞作品 一席
light during the daytime(とらうと)
床暖がはりきる冬がなまけてる フジロックのチケット買い求む 閃々と陽の射し込んだ西武線 ほんのり機嫌の良いみなさんと FILL POWER 750で燥ぐ日の目当てはバナナティラミスの氷 ふわふわになってるかき氷じゃなくてメニュー眺めてる今の気分が 珈琲を飲めば安らいでく いつも いつから好きかは分からないけど 目抜き通り突っ切った先のギャラリーにイグアナ かわいい ポストカードも 空も鱗もポリプロピレン ポイフルの色で綺麗に塗ろう 塗りましょう いま観てた? 昼間のハリウッドの空の始まり、あんなでっかいんだね coming off the なんちゃらってなんだっけ(ヨギボーにバックハグされながら) 真っ白なシャツをささっと並べたらゆっくり膨らむのが真っ昼間
(とらうと @fxxkincrazyjoke)
■受賞作品 二席
無声動画(石村まい)
まぎれもない白へ卵のとうめいな底はやばやと曇りはじめる サニーサイドアップ 調整されたよろこびはえくぼをそれほど深めはしない 影として生まれなおして牛乳の線がコップに刻まれてゆく 薄い崖のごとく切り出すことばだけ掬ってフォーク二本の反射 苔色の廊下がずっと脳にある ともだち ぬりえ おみずください 駅近の定義がこまかく合致する人とふくふく笑って生きる ぬけがらに囲まれながら本を読むひとつの儀式としての部屋干し ティファールの上蓋あけて逃がす湯気 だれかのための妖精がくる 自然光を照明にする一日が無声動画のようですずしい ふたりしてうどんが好きで、はすこし嘘 きのうと同じ箸を乾かす
(石村まい @mai_tanka)
■受賞作品 三席
朝靄の楽章(水也)
橙の雲に覆われ隠れてく空のはしっこまだ見ていたい 夢を見ているだけ永遠に春が終わらなければと波はうたう せんせいにどうぞと言われ葡萄酒をフリルの花に染みわたらせて 日を飲んだ夜が明けないことを祈るつめたい水に浮かんでいたい ひたすらに駆け抜けていく風のようあしもとは海見向きもしない こねこの目夜の隨に星屑のかけらを拾い集めているよ 呟いた泡が歌ってくれるからいつまでだって存在してる 水面より眠る愛しきオフィーリアまひるの月を眺めていたい
(水也 @m_iya_o)
※今回、選のみ(評なし)
選者プロフィール
長谷川麟(はせがわりん) @1827391ru
1995年、岡山県岡山市生まれ。大学4年生から岡山大学短歌会に所属、創作をはじめる。「塔」所属。2022年、第十回現代短歌社賞受賞。2023年、第一歌集『延長戦』を現代短歌社より刊行。