文語(現代文語)部門、小川優子さんの選とコメントを発表します。
賞は、文語部長賞と、文語副部長賞の2種類です。
(敬称略)
■自由詠部門(文語)
文語部長賞
故郷のオリーブの木陰を知らずして白布の子らは横たわりけり
塚本直生
(選者コメント) 本当に切ない悲しい世界です。遠き国の戦争を詠みながら傍観者としての他人事になっていないところが素晴らしく、感動を受けます。良い作品なればこそ解題・解説・詞書などをつけないようにしたほうがよいです。「横たわり」→「横たはり」、「けり」→「をり」の二か所のミスがありつつも今月の一位です。
文語副部長賞
ゆふがほの経帷子《きやうかたびら》のしろたへのごとくあやしう闇に浮かべり
敦田眞一
(選者コメント) みやびな仕上がりになりましたね。「ごとく」は音便化(「ごと」への省略可)せず「あやしく」だけ音便化させたのはなぜでしょうか。不自然さを感じました。
■テーマ詠「もうすぐ夏」(文語)
該当なし
■4月の自選(文語)
該当なし
■連作(文語)
連作文語部長賞
「無題連作6首」 檜山省吾
発車後の指定券を見せ温和なるフィリピンの男乗りたしと言ふ
宮城の前にちぐはぐな着物着て洋人多き暑き日なりき
式阡弐拾肆年首都より帰りつき熊目撃放送のうららか
雨垂れの音する部屋に昨夜居し油紙のごとき女を思ふ
幸ひを簒奪せしもの探し咲く蓮の水面眺めて歩む
後ろ手に明るき声あり高尾山落暉望みて巌に坐す夕
(選者コメント) 連作にする意味があったかどうかは疑問です。「短歌は一首でひとり歩きするものだ」と土屋文明ら先人はみな言っていたので、連作というものにあまり賛成ではありません。しかし、日本のシネマのような読後感があるので、ここでは成功しているといえるでしょう。漢字の多用もこの異邦人の雰囲気にふさわしく活きています。2,3,4,5首目が良いですね。
(選者:小川優子)