編註:猫背の犬さんに預かった原稿を発表します。
こんにちは、猫背過ぎるが故に友達の子どもからよくおんぶをせがまれる猫背の犬です。
いつもお世話になっています🐈
今回毎月短歌でゲスト選者をさせて頂く機会を深水さんに頂いたので、たくさんのおうたの中からいいなと思ったおうたを13首、その中でも特にいいなと思った7首には評も合わせて選歌させて頂きました。常日頃からペンを持つ習慣が無く、短歌より長い文章を書くこともないのでお見苦しい所もあると思いますが、皆さんの素晴らしいおうたと併せて見ていただけると嬉しいです。
(敬称略)
■特にいいなと思ったおうた達
紙コップ片方渡し「電話する」別れるための口実として/白鳥
糸電話を想起させるユニークな上の句をひっくり返すほど切ない下の句に惹かれました。
この糸電話に糸はついておらず、2人も再び繋がることはないのかもしれません。それなのに主体からは余裕すら感じられて、こうなるのにどんな出来事があったのだろうと気になりました。素敵なおうたです。
傷つかぬ言葉を探すコーヒーの氷がせかすほどの静寂/アゲとチクワ
恋人との別れ際を想像しました。氷がカランと鳴る音が気になるほどの静寂という比喩が素敵です。また、氷がせかすまでどれだけの尖った言葉が主体の頭に浮かんだのでしょう。どんな言葉を選んでも結局は相手を傷つけてしまう事を知っていてなお考える主体はとても優しい人なのだろうと思いました。
ラブホテル 人工甘味料の中二人ぼっちで確かめ合えば/水の眠り
人工甘味料が含まれたものを嗜んでいるのではなく、ラブホテルを人工甘味料と表現している景だと取りました。全く違うものなのに何故か似ているように思えて見入ってしまう不思議なおうたで、全てを言い切らない表現方法も雰囲気に合っていて素敵だなと思いました。
台紙ごと姉と一緒に嫁ぎゆきヤマザキじゃないパンを買う春/くらたか湖春
一目見た瞬間に素敵なおうただと思いました。主体はきっと自分の欲ではなく姉のためにシールを集めていたのでしょう。ヤマザキじゃないパンはあっても姉はいない家を想像すると切なくなり、私自身も春のパン祭りが来るたびにこのおうたを思い出すと思います。
教室の後ろの席は遠くって先生好きな人はいますか/藤瀬こうたろー
単に教壇と机との距離だけではなく、先生と生徒という立場的な距離もあるその恋にはどれだけの壁があるのか、想像すると苦しくなりました。恋は盲目と言いますが、目が悪いから後ろの席は見えにくいという教室あるあるともかかっていて、とても素敵なおうただなと思いました。
爆発のコロッケばかり生んでいる優しい雨の降り続く夜/琴里梨央
なぜ優しい雨なのかと思ったのですが、おそらく主体は例えば誰かと一緒に作っているとか、幸せな状況下にいるのでは無いかと思いました。もしかすると雨が原因で(雨止まないからご飯食べて行きなよ、みたいな?)そのような状況になったのかもしれません。上の句と下の句の温度差が良くて、とても好きなおうたでした。
風は止みただ一面に静止画の死にたくなるような新緑/桜井弓月
素晴らしいものを見ると普段は眠っている感情が顔を出すことがあります。主体は自分でも知らないうちにこのような感情を抱えていたのかもしれません。ただ、死にたいというような極端な感情が出るのは景色への最大の賛辞のようにも感じました。静止画と死にも上手く言えない共通項のようなものがあるような気がして、素敵なおうただなと思いました。
■いいなと思ったおうた達
LINEには亡き母の垢残ってて「元気ですか」と送りたくなる/藤瀬こうたろー
子どもらの祈りを終えた両手から解き放たれる透明な蝶/白鳥
線香の匂いは次第に薄れゆき生きることとは忘れことね/白鳥
自分ごと裏返したい こんばんは、全ての四角い街の猫たち/短歌パンダ
最後まで「ひらく」を押していますので、どうぞゆっくり生きてください/アゲとチクワ
占いは未来ばかりを見たがって今の私を信じてくれない/ZENMI
以上になります。普段は本州の最西端に住む私ですが、最近は仕事で月に2週間くらいのペースで横浜に行っています。あまり詠めない日が続いていますが、段々とシティーボーイになっていく猫背の犬を今後ともよろしくお願いします🐕
(猫背の犬)