文語(現代文語)部門、小川優子さんの選とコメントを発表します。
賞は、文語部長賞と、文語副部長賞の2種類です。
(敬称略)
■自由詠部門(文語)
文語部長賞
不二山《ふじやま》の肌《はだへ》の雪のつねなればひとの思ひのおなじくもがな
敦田眞一
(選者コメント)全くですね。材料の見繕い方も構成も良いでしょう。
文語副部長賞
無縁墓《むえんぼ》に茂れる苔のあをあをとうちにふふめる春のあまみづ
敦田眞一
(選者コメント)季節のやわらかさが出ている。あまみづが主役になっているところだけ惜しいが、ほかはとても魅力的。
文語副部長賞
おもひびとのいたづらなれば花殻のごとくとくとくうち捨てまほし
敦田眞一
(選者コメント)恋人のつれなさがよくわかる。感情が中心にすえられているので心地よい。まほしの誤用が惜しい。
文語副部長賞
花束の両のかひなに抱かれてゆふべのひとのけはひの覚ゆ
敦田眞一
(選者コメント)キュンとする。「の」の重なりが非効果的かも。ほかはとても良い。
文語副部長賞
梅雨闇に迷いし君は何処にか短夜明けて杜若ひとつ
古井 朔
(選者コメント)不思議な詩情がある。
文語副部長賞
ひとしきり風に揺られし夏木立微笑みまとひて君に寄り添ふ
古井 朔
(選者コメント)主語が不明なのが惜しいが、ほかは賛成。
■テーマ詠「性愛短歌」(文語)
文語部長賞
この人の子を産むだらう快楽《けらく》より先に子宮がさう定めけり
水川怜
(選者コメント)女性特有の感覚を、率直に平易に表現できています。文法的には文語とは言えない部分が多いですが、結句の「けり」などは運命づけられたさだめのようなものに説得力を持たせたうまい言い切りの表現になっています。
■4月の自選(文語)
文語部長賞
ペン先を硝子の杯にひたすごと蒼き夜霧の深まりゆきぬ
眞木環
(選者コメント)魅惑的で構成力もあって良い歌。
文語副部長賞
青葉闇さまよふ魂隠れたりさんざめく結葉ゆれて子ら走る
古井 朔
(選者コメント)情景がよく浮かぶ。結句が唐突にみえてリアルなカメラワークを感じる。うまい構成。
文語副部長賞
雨の止む空を見ずして潦 沈むビルなど見下ろしてゐる
檜山省吾
(選者コメント)雨の重複が惜しい。にわたずみが主語に見えてしまうのも惜しい。構成も主題もかっこいい。
文語副部長賞
もう飛べぬ玉蟲だつた道端に落ちた電池を車で轢いた
水川怜
(選者コメント)文語的要素はないが、インパクト強く新しさもある。
文語副部長賞
夢うつつまだ覚めやらぬ通ひ路に知るものもなく落つる花かも
眞木環
(選者コメント)内容がちゃんとあって、正しく伝わる。疵もない。
■連作(文語)
文語連作佳作
(選者コメント)最後の一首など整っていて清涼感まで伝わる。
「山路」 檜山省吾
杉の身を借りしいのちの佇ちにけり時を共にす身は異なれど
陽のもとの山路は曲がれば唐突に杉のかかふる闇はありけり
もだしたる杉の路ゆく人ありて闇中の身にわれもなるかな
おほいなる雲はなぞえを這ひ寄りてわれの影身はひたつちに消ゆ
眼前の連山西に額づきて白雲染みて天涯にあり
(選者:小川優子)