第5回毎月短歌、人間選者 高田月光さんによる選評の発表です。
(高田月光さんより発表原稿をお預かりして、短歌マガジンより発表させていただきます)
今回は、高田月光さんの好きな歌、という基準で選ばれたそうです。
高田月光の好きな歌
自由詠部門
深山睦美さん
ジャグリングしながらで良い、聞いてくれ、俺お前とは一緒になれない
ジャグリングに夢中になっている「お前」に、「俺」は一定の理解や譲歩を示しています。しかし「お前」は、「俺」の切り出した大事な話に関心がないように思えます。あるいは、こんな話を切り出されるとは思っていないのかもしれない。
わたしはジャグリングしてばかりで、一緒になれないと思いつめている人の気持ちをぜんぜん汲めていないのかもしれない、そうドキッとさせてくれたお歌です。
猫背の犬さん
マリオでも残機が×1(いち)になった日は眠れぬ夜を過ごすでしょうか
マリオの朗らかさや楽しいアクションは残機という概念があるからこそのものなのかもしれません。
眠れなくなったマリオの姿から逆説的に、わたしたちは常に「残機が×1(いち)」の状態で生きていることを思い出してしまいます。安眠できた夜などはそんなことを忘れて、無限の残機を持っているかのように錯覚しながら生きているのかなと考えさせられました。
高田月光の好きな歌
テーマ詠「食」
遠藤ミサキさん
ふたりでも食物連鎖は発生しきみはたしかに捕食者だった
愛は惜しみなく奪うものという言葉があったと思うのですが、そのことを考えさせられる愛のお歌だなあと読みました。「きみ」を捕食者と認め命を差し出す主体と、主体のすべてを捉え、食らおうとする「きみ」の、どちらがほんとうの愛なのだろう。主体と「きみ」だけの閉ざされた、完結された関係性が素敵に見えてしまうお歌でした。
朝野陽々さん
言い訳を胸に秘めれば朝焼けに食べられそうな川沿いの道
後ろめたいことがあった朝の帰り道と読みました。言い訳を胸に匿うのは大人の強かさでもあり、少女の痛々しさでもあり、その主体のうえに夜と朝とのあわいを照らし出す朝焼けが広がっています。美しい朝焼けが大きく口をあけていて、胸の内から出せずにいる言い訳ごと自分を食べてしまうという主体の想像に、グッと惹きつけられるお歌でした
高田月光の好きな歌
11月自選部門
高原すいかさん
ここからは地球が救われてしまう展開だから面白くない
一緒に映画を観ている友達とかが隣でこんなことを呟きそうなリアルな語り口で、おかしみを誘います。主体が地球が救われて「しまう」ことを残念に思っていることに共感を覚える一方で、どこかひやりとした気持ちにもなる。地球が危機から救われる物語を観るたびに思い出すだろうお歌です。
水口夏さん
淋しくて左を向いて眠るとき右には何があったのだろう
眠るときに淋しい気持ちだったり、左を向いて眠る体勢であったりすることに共感を覚える人も多いのではないかと思います。その一方で「右には何があったのだろう」と考えることは、少し怖いような、淋しさが増幅されるような、不思議な問いかけです。非常に魅力的なお歌でした。
【文・高田月光】