映画をみて短歌を詠む「映画短歌会」。今回は『ポトフ 美食家と料理人』をみていただき、短歌を詠んでもらいました。
泣き笑い かの人深く思い出す ただただ生きる術ではあれど/御影
作中で人生を季節に例えるシーンが出てくるのだが、映画自体もまた季節の移り変わりのような作品だった。
たっぷり差し込む日差しの中、来客に向けて料理をしているシーンから始まる。野菜・魚・肉・ザリガニと様々な食材が現れ、調理時の熱や湯気と合わさり温かく彩り豊かな場面に、登場人物たちがてきぱきと動く姿も軽やかで美しい。
また、炒める音、水をくむ音、切り分ける音…一つ一つの音がはっきりと繊細に表現され、明るく賑やかな春~夏の様相がある。
そして、ストーリーは円熟かつ深く重い秋へ。
その中で、ドダンが1人でウージェニーのために料理を作るシーンがある。時刻は夕方か夜、集中が満ちる静かなキッチンには虫の音が響く。調理中の手元やそれを見つめるドダンの目元などクローズアップが多く、始まりのシーンの料理風景と打って変わって重厚でしめやかな雰囲気の中、ただ一人に喜んでもらうためだけの料理、その根にある愛が強く映っていた。
ドダンからウージェニーへの料理、そして食事を境にストーリーは緊迫し、徐々にそして確実に閉ざされた冬へと移っていく。登場人物たちに再び春は巡ってくるのか…。
変化がありながら、終始穏やかで落ち着いたテンポの映画であった。しかしその中に料理と人に対する重厚な思い(愛、信頼、自信、こだわり…)が常にある。登場する料理も映画も派手なものではないが、とても優しく慈味に富んだ映画である。
【文・御影】
映画公式サイト『ポトフ 美食家と料理人』
■『ポトフ 美食家と料理人』公開日・公開情報
12/15(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
■筆者プロフィール
愛や死などをテーマにした短歌・細かな模様のペン画イラストを創作し、Xで発表しています。
A短歌会にも所属しています。