話題の歌集・歌書をピックアップし、ネットのみなさんに著者コメントをお届けするコーナーです。今回は、第二歌集『夜を着こなせたなら』を出版したばかりの歌人山階基さんにコメントをいただきました。
ネットのみなさんへ:著者コメント
― 第二歌集の出版おめでとうございます。歌集より代表的な短歌をご紹介ください
いちどきりピアスは耳を突き抜ける別の星から呼ばれるように もう取っておいても仕方ないけれど総入れ替えの春の台割 頰に雨あたりはじめる風のなか生きているのに慣れるのはいつ 尾を垂らし虎はこころにあらわれるあれから痩せも太りもせずに くるぶしを波にまかせている夢の浜はあなたと来たことがない (山階基『夜を着こなせたなら』より)
― 第二歌集までの道のりはどのようなものでしたか?
『夜を着こなせたなら』は『短歌研究』誌の〈作品連載〉がもとになっています。
逆にいうと、これが1冊にまとまるという前提で30首かける8回の連載とその周辺の作品を書いていきました。
およそ2年という長い間ずっとなにかを意識しながら書くという経験はこれまでになく、スリリングで楽しい時間でした。気持ちが作品に反映しているように思います。
連載より前の作品と、第一歌集『風にあたる』には入らなかったもっと前の作品も少しあわせました。
― 第一歌集『風にあたる』では山階さん自身で装幀も担当されていたのが印象的でした。今回担当されなかったのは何か気持ちの変化があったのでしょうか
『風にあたる』は、1人でやれることをつきつめて仕上げることができました。今回の第二歌集『夜を着こなせたなら』は、なるべく人まかせにして自分だけではけして辿り着かない、まったくちがう感じのものになってほしかったのです。二度とないかもしれない歌集づくりでもあるので、希望はぜんぶ言おうと思いました。
装幀はあこがれてやまない名久井直子さん、装画はきっと夜の空気をかたちにしてくれる高山燦基さん。山階作品に親しんでくださっているおふたりに本のかたちをおまかせしました。本のいちばんそとにある帯には、ずっと好きで聴き続けてきた音楽の作り手である辻村豪文さん(キセル)、山崎ゆかりさん(空気公団)に快諾をいただき、いちばん遠くからの言葉をいただきました。そして、ぜひ感想を聞いてみたいというかたがた(糸井幸之介さん、古賀及子さん、杉田協士さん、没 AkA NGSさん)にレコメンドの文章までお願いしてしまいました。
みなさまのふだんの仕事を尊敬してお願いしたのですが、いただいたものがほんとうにすばらしく、手元に届くたびにため息がでました。
― 発売日告知ツイートにキービジュアルとして動画が添えられていましたね。歌集としてめずらしい試みだと感じました
装画の高山さんがつくってくださいました。装画のビジュアルがもとになっています。
名久井さん・高山さん・編集の國兼さんと装幀の打ち合わせをするなかで〈夜を顕微鏡で覗いたら見えるもの〉というイメージが生まれ、告知にアニメーションをつかうというアイデアを出していただきました。きれいでかわいくて、ちょっとこわい、夜の顕微鏡の中そのものになっているように思います。
― デザインにも工夫が凝らされたこの歌集を実際手にした方の感想が楽しみですね。本日はありがとうございました。
■書籍情報
書名:『夜を着こなせたなら』
著者:山階基
第二歌集
価格:2000円(税別)
発売日:2023年11月10日
版元:短歌研究社
装幀:名久井直子
装画:高山燦基
【購入リンク:Amazon】
■著者プロフィール
山階基(やましなもとい) @chikaiuchini
1991年広島生まれ。2010年に短歌を書きはじめる。早稲田短歌会、未来短歌会「陸から海へ」出身。2016年、第59回短歌研究新人賞次席。2017年、未来賞(2016年度)受賞。2018年、第64回角川短歌賞次席、第6回現代短歌社賞次席。2019年、『風にあたる』(短歌研究社)上梓。2019年より東京・西日暮里「屋上」と共同で「屋上と短歌」を開催。麻川針(あさかわ・しん)名義で組版・デザインを手がける。