話題の歌集・歌書をピックアップし、ネットのみなさんに著者コメントをお届けするコーナーです。今回は、第二歌集『推しとショボン』を上梓された 歌人蒼井杏さんにコメントをいただきました。
■第二歌集『推しとショボンヌ』について
『瀬戸際レモン』以降の蒼井杏の短歌を、今回の『推しとショボンヌ』のために編みなおしたちいさな歌集です。
どこへでも鞄に入れて連れて行ってもらえるよう、ちょっとしたすきま時間に片手でぱらっとひらけるよう、こぶりなサイズに仕上げました。
書店でふと出会った時に思わず手に取ってぱらっとめくっていただけるよう、表紙イラストはまつざきしおりさんにお願いいたしました。とてもキュートでチャーミングで明るさの中にもブルーの色使いの繊細なみずみずしいイラストです。
瀬戸内海・直島在住のまつざきしおりさんのイラストは、対岸の瀬戸内海のほとり出身の私の心に、なおさらとても響くものでした。一首でも、歌がみなさまの心に届くことを願っています。
■作品の初出について
掲載作品は、「未来」の月詠を中心に、今回の歌集のために編みなおしています。
巻頭の「にしびとはちみつ」は、「うちまちだんち」の「部屋にうたえば」に掲載していただいた作品で、テーマとなった人形のお写真がなつかしくもきゅっと胸のしめつけられるような切なさの響く作品で、個人的に大好きでした。
巻末の「ゆるゆるフリル」は、未来賞を受賞した思い入れのある作品です。岡井隆さんに評をいただいたことは、私の一生の宝物になりました。
■特に印象に残っている短歌
以下、挙げさせていただいた短歌たちは、どれも読んでいただいてなんらかピックアップしていただいた幸運な作品たちです。他にもあります。いただいたコメント、お言葉たちのひとつひとつが、私の糧となり励みとなりよすがとなり光となり、今の私の源になっています。ありがとうございます。
背表紙が背の順にならびうつくしくきおくのひざをおりまけている アイコンをかえたのですね。とおいなぁ。クリアファイルであおいだあの夏。 プリンターのうえのねこの目とじてゆき世界中からわたしがきえる 首のボタンはずしてくるしい水を飼うわたしの胸を知らないでしょう きまじめな紅茶みたいにさらさらのまなじり きっと、ありふれないでね にんじんの葉っぱみたいに楽しいです じみに じみちに やればできるこ 大根にうすい十字の切りこみを どうかきみ、ながいながいスパンで たましいをきれいなかぜにのせてゆくわたしのせぼねにわたしをたくして みずたまのはねたあぶらのかたぶらのじわじわと春、やむをえなくて みんなえらい。えらいよ金魚 ぷかぷかとわたしにできない呼吸で生きて この鍵はだれかの指の味がする。わたしいつでもひざまずけるよ うつむいたうさぎのかたちにむきおえてくぐらせているうすいしおみず もうじきにいとなみますからパイプいす千をひらけば千鳴るパイプ むかしとったきねづかがじゃまつぎつぎと皿立てに皿を立ててゆきます 玉ねぎのこれはアリシン、とめどなく蛇口の水はエルドラドまで お湯かけてホチキスのせてラーメンのわたくしまでの紆余曲折の がんばってくださいなどと言われたり言ったりしながら穴まであるく 採血のあとのちいさなましかくを春のどこかでなくすのでした ぬばたまの黒髪ねむる針山のむかしむかしのおはなしをして してないです。いまは、なんにも。雨の降るページにひとさしゆびをはさんで (歌集『推しとショボンヌ』蒼井杏より)
■歌集編纂の経緯
はじめ365首までしぼった後、書肆侃侃房の田島さまのご助言をいただいて、さらにしぼりました。その際、全歌を見直し、新しくつくりなおした歌もあります。いくつかは、短歌をタイトルにしました。
■歌集を編むにあたって意識したこと
季節でまとめることを意識しましたが、くりかえし私の中で出てくるモチーフがあり、どこでどのように配置しようか、かなり迷い、考えました。
■装丁やデザインについて
歌集を置いている書店は限られており、その中でも、訪れた方に思わず手に取っていただけるような、インパクトあるようなタイトルと、表紙の装丁を思いました。とにかく一度手に取ってめくってほしい……そんな気持ちで、表紙イラストをまつざきしおりさんにお願いいたしました。こぶりなサイズとキュートな表紙……どうぞお手にとってページをめくっていただけたら、と、思います!
■歌集制作に協力いただいた方について
表紙イラスト装丁・・・まつざきしおりさん
その他もちろん、書肆侃侃房のみなさま、未来短歌会の加藤治郎さん、彗星集のみなさま、いちごつみのかみしのさん(上篠翔さん)
■著者情報
蒼井杏(あおいあん) @aoianaoian
2015年未来短歌会に入会。加藤治郎に師事。
瀬戸内海のほとりうまれ。ひとみしりな雨女。
第6回中城ふみ子賞、第57回短歌研究新人賞次席、2017年未来賞。
第一歌集『瀬戸際レモン』新鋭短歌シリーズ27 書肆侃侃房
『推しとショボンヌ』書肆侃侃房
■書籍情報
書名:『推しとショボンヌ』(おしとしょぼんぬ)
本書販売ページ(Amazon)
幻のカバーつきの販売ページ(著者販売サイト)
著者:蒼井杏(あおいあん)
歌集ナンバリング:第2歌集
税込価格:2090円(税込)
発行日:2023年11月5日
総ページ数:144ページ
イラスト:まつざきしおり
発行元(版元・出版社):書肆侃侃房